乳癌が再発(転移)すれば「治癒」はあり得ない。治療は単に「延命」あるいは「苦痛緩和」のため、とする思想が過去にあり、現代でも初診時に患者にまずそれを宣告する医師もある。しかし、たとえ癌が治癒しても人間の生命は有限であり、要は死ぬまで癌の苦痛を避けることができれば、治療の意義はあったというべきである。抗癌治療がすべて脱毛・嘔気等の苦痛を伴うものではなく、現代は病期にあった選択肢もふえつつある。わずかの延命が新薬発売に間に合うこともある。そのためには「あきらめない」ことが最も重要であり、患者より先に医師が「あきらめる」ことはきわめて不幸である。
乳癌患者の「つよみ」は延命への希望を持ちやすいことであり、子・孫の「入学・結婚」等をはじめ「希望」は治療への強い動機となりうる。逆に人生につらいことが多く、このうえ抗癌剤の苦痛に耐えるより、なにもせず安楽に美しいまま死にたいと願う人もあるかもしれない。しかしドラマでみるような都合の良い最期は癌が暴れた際にはごくまれとなる。
医師・スタッフにとってこの領域の仕事は当然ストレスも大きい。しかし治療が奏効し前回と全く異なる笑顔で外来にみえた患者さんに「頑張ってもらって有難う」と礼をいいたくなるときこそ、治療者の最高の「癒し」である。
我がクリニックはたとえ長期の治療歴があっても、転移による症状がつよくても、患者さんに治療意欲・体力さえあれば治療を引き受けている。2000年以後の全例の再発(転移)乳癌の再発後の生存期間を以下に図示する。図に赤い曲線で示した「全期」133例のそれは再発初期から私に治療をさせて頂いた患者さんの生存曲線である。全例 487例の50%生存期間も5年にせまり、5年後の癌治療の進歩を期待しつつ現在の治療を実施している。
分子標的剤「ハーセプチン」の登場はそれまで予後不良といわれた HER-2陽性乳癌の予後を劇的に改善した。それまでは乳癌の病型分類といえばホルモン受容体陽性・陰性のみであり、単にホルモン療法が効くとの理由からのみで無くホルモン受容体陽性例が再発後の予後も良好であったのであるが、2001年以後はHER- 2陽性・陰性の分類を加えて、乳癌が4種の病型(サブタイプ)に分類できることとなったのである。以下、ホルモン受容体・HER-2各々の陽性・陰性別に各病型の特徴をまとめる。
ホルモン受容体陽性・HER-2陰性 ― 最も頻度の多いタイプで、再発(転移)後の生存期間も最も長い。ホルモン剤の効果が期待でき、化学療法も劇的でないにせよある程度期待できる。米国の乳癌治療の大物である Hortobagyi という先生が昔「再発の状態が life-threatening (生命を脅かす状態)で無い限り、治療はホルモン剤を中心とし、life-threatening な状態にはじめて化学療法を行うべし」との「ドグマ」を主張した。ある程度正しい主張であるが、日本の臨床医のなかにはその「ドグマ」を誇張して信仰し、実際に患者が「死にかけ」となってはじめてアリバイ工作的に化学療法を考える医師がいる。充分癌が進行してしまうと体力的にもまともな化学療法は不可能となる。私はlife-threatening とは「生活に障害を感じる状態」「放置すれば近日そうなる状態」であろうと考え、体力に余裕のあるうちに化学療法を開始すべきと考える。例えば、肝転移がある場合、化学療法のみでないにせよ免疫療法を含めた積極的な治療が、予後の面で望ましいし、痛みの強い多発骨転移、咳きを伴う肺転移も化学療法の対象と考えてよい。
ホルモン受容体陽性・HER-2蛋白陽性 ― おそらくハーセプチンの使用がなければある程度予後不良であろうが、ハーセプチンを使えるわが国でのこの病型の予後はホルモン受容体陽性・HER-2陰性のグループよりやや良好である。「ハーセプチンとホルモン剤のみで効果がなければ化学療法を」と主張する医師もあるが、私はむしろハーセプチン・化学療法を先行させ、完全寛解が得られた後に治療をゆるめる方針をとっている。
ホルモン受容体陰性・HER-2蛋白陽性 ― ハーセプチン・化学療法をしっかり行うと、劇的な効果が得られることも多い。ただし、ハーセプチンの効果の及ばぬ脳転移の頻度が多いので無症状でも造影MRI 検査によるスクリーニングを受けておいたほうがよい。 ハーセプチンと毒素が結合され、注射時に患部に主体的に集まる薬剤がTDM1(カドサイラ)であり、これを使って効かないやっかいな例に最近用意された薬剤が「エンハーツ」である。エンハーツは肺への毒性が強く、使用時に注意が必要である。
ホルモン受容体陰性・HER-2陰性 ― ホルモン受容体に ER, PgR の2種があり、これら2種とHER-2蛋白の全てが陰性のため、トリプル・ネガティブと通称される。たとえトリプル・ネガティブであっても早期の治療ができればそれほど予後は悪くないが、再発 (転移) が実際におきると予後は最も不良。再発後の薬剤の効果を調べてみるとファルモルビシンやそれを中心とした組み合わせはある程度効くが、他の病型で最も有力な薬剤であるタキサン(パクリタキセル・ドセタキセル)やイリノテカン・ビノレルビンが全く効かないのが特徴的である。一方、標準治療ではないがトリプル・ネガティブにも効くレジメンは実在する。DMpC 療法がそれである。DMpCとは乳腺クリニック児玉外科児玉宏理事長が開始した 1) ヒスロン H2)フルツロン3) エンドキサン のくみあわせの経口投与で 1) はホルモン剤、2)3) は抗癌剤である。ホルモン受容体陰性にホルモン剤を用いる点に奇異感はあろうが、1) が血管新生阻害作用を通じ効いていると考えている。
なお、2011年末分子標的剤「アバスチン」がパクリタキセル併用の際にのみ使用可能となりトリプル・ネガティブ例にも効果が期待される。 さらに、この病型(トリプルネガティブ)に対し期待できる以下の2種のレジメンが登場した。 ①トリプルネガティブには比較的頻度が多い遺伝性乳癌に有効なオラパリブの服用(遺伝性の有無は別途血液検査が必要) ②2019年に、標本検査でPDL1≧1%との条件で、新しくテセントリク+アブラキサンという組み合わせが保険適用上認められた。テセントリクは「オプジーボ」に続くいわゆる免疫チェックポイント阻害剤で、乳癌の分野ではMSI-highの例の「キイトルーダ」に続く保険への通過である。(まだ旧来のオプジーボは乳癌に対しては保険適応となっていない)
ホルモン受容体・HER-2蛋白各陽性・陰性別の再発後の生存曲線を以下に図示する。
図の"Luminal"はHR(ホルモン受容体)(+) Her2(-)
"Luminal-Her2"はHR(+) Her2(+)
"Her2"はHR(-) Her2(+)
"triple negative"はHR(-) Her2(-)を示す。
(図は2013年12月末集計)
いわゆるLuminal BはLuminal-Her2と、Luminal中で特別進行の早い群があるが、後者を「Luminal」に含めている。
通常はホルモン受容体陽性例に用いられ、閉経前の適応薬は注射剤 LH-RH アゴニストのゾラデックス・リュープリンおよび経口薬タモキシフェンである。閉経後の適応となっている薬物はトレミフェン(フェアストン)― 最近閉経前にも適応拡大された ― の他、いわゆるアロマターゼ阻害剤としてアナストロゾール(アリミデックス)・エクセメスタン(アロマシン)・レトロゾール (フェマーラ) の3種が用いられている。
以上が標準的に第1線で用いられる薬剤であるが、これらの効力が限界がある場合に用いられる第2線の薬剤が MPA (ヒスロンH)である。MPA の効力は強く、独特の副作用 ― 血栓症・肥満・糖尿等 ― に注意すればきわめて有用であり、ホルモン効果以外に血管新生阻害作用もあるためホルモン受容体陰性の乳癌例にも有効の場合がある。
第1線の薬剤といえどもそれぞれ注意すべき副作用があり、女性ホルモンを下げるゾラデックス・アロマターゼ阻害剤は長期使用で骨塩量を低下させたり、独特の関節痛・骨痛を起こす。患者さんはしばしば「骨転移」を心配するが、「朝に手指が痛む」等独特の痛みであり、鑑別は容易である。症状が高度で休薬等を考える場合、アロマターゼ阻害剤に加え、MPA1錠を1日1回同時投与することで痛みは劇的に改善し、鎮痛剤よりも有用である。タモキシフェンは腫瘍細胞表面のホルモン受容体をブロックする作用機除で効くため、全身の女性ホルモンレべルを、むしろ上昇させ、従って骨塩量低下、関節痛などは起こらない。かわりに血栓症・長期内服での子宮体癌リスクの増加などがみられる。
忘れてはならない有力なホルモン療法が「卵巣摘出手術」である。一見野蛮におもえるが最近の腹腔鏡手術を用いればごく短期の入院で安全に実施でき、ゾラデックス・リュープリンを約1 年注射するのと同等の費用で永続的な (閉経年齢までの) 効果が得られる。画像検査で卵巣転移が否定できない再発乳癌例では診断上・治療上より大きな意義が出る。閉経前の再発例にて最強のホルモン治療効果を得るため、私は過去しばしばゾラデックス・リュープリン注射と閉経後適応薬であるアロマターゼ阻害薬を併用してき、無能無理解な保険組合が保険金支払いを拒否した経験があり、そういう際にも「卵巣摘出手術」は有用であろう。今後はこの併用も保険で認められるはずだが。
再発・転移癌の治療において、ホルモン療法がおこなわれる際、上記の薬剤中タモキシフェンが用いられる頻度は同剤が通常術後再発予防に用いられている場合が多いため、きわめて少ない。他のいかなるホルモン剤、あるいは組み合わせを用いるか、あるいはどういう転移に化学療法との併用を行うかが問題となる。ゾラデックス・リュープリン・卵巣摘出のいずれかとアロマターゼ阻害剤の併用はしばしば(前述のとおり)行われ、また前者いずれかとMPA の併用も行うことがある。互いの効果をうち消し合うことが世界的な試験にて認められた組み合わせがタモキシフェンとアリミデックスの併用である。薬理作用がある程度共通する組み合わせ、タモキシフェンと他のアロマターゼ阻害剤、あるいはトレミフェン・エビスタとアロマターゼ阻害剤についても(同様の試験は困難だろうが)要注意であろう。ホルモン受容体陽性の転移癌に化学療法を行う時期が遅きに失しないようすべきなのは前項目・病型分類に述べたとおりであるが、化学療法あるいはハセプチンを投与する際にアロマターゼ阻害剤を中止すべきか否かについては経済上の理由以外に併用を避けるべき根拠がほぼ無い。ハセプチンや一部の化学療法については、アロマターゼ阻害剤との併用効果と、タモキシフェンとの効果阻害が唱えられているが後者の併用は実際上考慮される頻度は少ない。
ホルモン剤には長期新薬が登場しなかったが、2011年より「フルベストラント(フェソロデックス)」が登場した。両臀部への筋肉注射で、痛みはあるが効き目は相当みられ、更には2017年、2018年と順次認可されたCDK4/6阻害剤のイブランス、ベージニオとの併用効果にて、例えば閉経前の方には腹部皮下へのリュープリン、ゾラデックスいずれかとの併用も可能となった。
イブランス、ベージニオ共に極めて高価な内服薬であるが、(これらはむしろ分子標的薬ともいえるが、ホルモン療法と関連するので、ここに記する)ホルモン依存性の乳癌転移巣の進行をストップするというマイルドな効き具合で、イブランスは白血球減少があるため3週服用し、1週休薬といったスケジュールで他の副作用はあまりみられないのに比較し、ベージニオは「下痢」、「肺炎」といった副作用が見られる。
ただし、効き目が「マイルド」と先に述べたが、脳、肝臓といった進みが早い病巣には効かず、特にイブランスは白血球のみに注意しているとあっという間に進行してしまうことがあり、2剤とも毎月の腫瘍マーカーの変化に注意が必要である。医師に毎月のマーカーのデータをもらい、それが続けて上昇している場合には、その治療から逃亡する準備を始めたほうが良い。腫瘍マーカーは次項の化学療法併用時と異なり、使用直後1~2ヶ月の癌細胞溶解による「使用直後上昇」がないので、マーカーの変化は薬の効き目に直結すると考えられる。
転移・再発に使用される化学療法剤を考慮する上で、術前・術後の補助化学療法との関係がまず問題となる。補助化学療法に用いられる2大薬剤は FEC(5FU/EPIR/CPA)およびタキサン(Paclitaxel あるいは Docetaxel)であり、それぞれ薬剤の組み合わせの変型(例えば FEC に代え 5-FU を除いた EC、Docetaxel と CPA を併用したTC―など)は用いられうる。術後の補助化学療法についてはリンパ節転移例・悪性度の高い例にての延命効果が明らかにされているが、術前の化学療法が術後のそれに勝るとの証拠はまだ無い。化学療法後の手術で組織学的に癌細胞が消失した例で予後が良いことは当然であるが、癌細胞が消失しなかったり、術前化学療法が無効である例の予後は悪く、単なる生体を用いた抗癌剤感受性試験に過ぎないとの意見もある。
しっかりした術前・術後治療を行った後に再発した例では当然きびしい予後が予想される。その際に再度 EPIR 或いはタキサンが使用できるか否かは術前後の使用量・再発時期による。術前化学療法後の組織像で癌遺残のある場合や、術後化学療法中に再発した例などに対しては、当然他の薬剤を考慮せねばなるまい。以下各薬剤の適応を述べる。
9.その他、経口抗癌剤の例えばエンドキサンの他、5FU系の5FU、フルツロン、UST、ゼローダ、Ts1等々があり、再発乳癌にては特にゼロー ダ、Ts1がしばしば用いられる。6.のDMpCに用いられるフルツロン、エンドキサンは標準治療屋さんではあまり処方してもらえない。
10.「アブラキサン」はタキサンをアルブミンに懸濁したもので、効き目が長い。通常3週に1度、トリプルネガティブ乳癌でのみ「2週に1度テセ ントリクと併用して」用いられる。
以上、私が用いる主要な化学療法レジメンにつき特徴を述べた。そのなかで脱毛は (1),(2) のみであるが白血球減少は全てにみられ、用量・投与間隔にて調節するが、充分な効果を出すための G-CSF (ノイトロジン)を意識的に併用はしない。有効な場合は(1)以外はできるだけ長期間の投与が望ましく、他の副作用に対しても、薬物的にできるだけの対応策をとり、「癌化学療法は深山で厳しい修行に耐える行為とは異なる」と話をしている。
批判すべきは「化学療法3 レジメンが無効であれば中止し、緩和医療をすすめる」と公言する若手腫瘍内科医の存在である。癌が再発したら、医療費抑制のためすみやかにケリをつけるべしとの一部官僚の影の意向を感じる。「希望は最大の QOL である」ことは私の強く感ずるところであるし、「緩和」はそもそも再発初期から化学療法と平行して考慮すべきものである。ちなみに化学療法の有効性はせき・いたみなど癌関連症状の軽快にて化学療法開始後早期に予想されることが多く、腫瘍マーカーの低下は化学療法開始後2ヶ月かかる。「有効な化学療法はモルヒネに勝る」と強く思う。
(1) 抗 Her-2 薬
今世紀初頭に他国に遅れ保険薬承認された「ハーセプチン」は癌の表面に Her-2 タンパクが存在した場合、その「暴れ者」タンパクを打ち消す「抗体」として用いられ、画期的な治療効果・延命効果を示している。投与初回の熱発や、稀に見られる「心不全」の他は副作用も殆どなく、長期に用いても極めて安全である。しかし、諸化学療法と併用してもききめが薄くなる場合や、薬剤が脳に届かず、体の他部位の転移をおさえても「脳転移」には無効であり、Her-2 陽性患者の脳転移が高率であることが注目された。
2009 年、第2の抗 Her-2 薬として認可された「ラパチニブ(タイケルブ)は上記限界を克服する薬剤であるが、保険上「ゼローダ」との併用に限るとの制約があり、空腹時に 5 錠服用、副作用も下痢・皮膚・爪の炎症等軽くはなく、奏効期間でみても長期使用が困難な欠点がある。当院では認可 2 年前から本剤を輸入使用し、「食事後には血中濃度が 3 倍となる」とのデータを逆利用し、「食後 1―2錠」の服用にて基本的にハーセプチンと併用し、良好な結果を得ている。
その後も抗 Her-2 薬としてさまざまな薬剤が試みられたが、臨床試験で薬効が確認され、2013 年、2014 年と相次いで2種の抗 Her-2薬が保険認可された。その1つが Pertuzumab (パージェタ)であり、ハーセプチン・化学療法剤と併用して用いるが、タイケルブとは下痢の関係で併用できない。
最近認可のカドサイラ(TDM1)はハーセプチンに抗がん剤の役目をする毒素が組み込まれたいわゆる「ミサイル療法」剤であり、化学療法につきものの「脱毛」が無い等の画期的な有用性を持つ。高価薬であるが価格相当の価値はある。カドサイラに続くミサイル療法として2020年に認可された新薬が「エンハーツ」である。イリノテカンの成分が組み込まれており、効き目が強いが、肺への副作用が問題となって、使用が制限されている。治験段階で、高い奏効を目標としたために用量過大となっている可能性がある。
(2) 血管新生阻害剤
「アバスチン」は化学療法と併用して著明に効果を高める抗体として、大腸癌・肺癌にもちいられてきたが、2012年、「タキソールとの併用」を条件に乳癌でも認可された。米国では「奏効期間の延長」を目標とした臨床試験にて「延命効果が見られない」との理由で保険認可が取り消されたが、日本当局の英断を評価したい。アバスチンはタキソール既使用例でも併用すれば高率に著効がみられ、「鼻血」や「高血圧」「高価格」等の副作用・欠点を差し引いても有用性があるが、脳転移治療例でも高率にみられる「脳浮腫」の治療効果や、癌性胸水への効果が注目される。
(3) アフィ二トール
腎癌等に続き「ホルモン剤アロマシンとの併用」を条件に本年認可された mTOR 阻害剤作用や血管新生阻害作用をもつ経口剤である。口内炎・肺炎等の副作用があり、化学療法剤の「脱毛」がないとはいえ、注意して用いるべきである。最も早期に発現する副作用「口内炎」については当院にて用いられている「アロプリノールうがい液」の予防的使用でほぼブロックできる。
(4)palbociclib(イブランス)
本来「ホルモン剤」に分類されてもよいのであるが、ホルモン剤と共に用いられ、ホルモン受容体を有する細胞のみの細胞周期を止め増殖しないようにする作用を示す。副作用は比較的軽く「白血球減少」を主とし、単に一週間休薬するだけで回復する。palbociclibの欠点は白血球減少対策での休薬期間が繰り返されるため進行の早い転移巣(肝転移や脳転移など)が進行してしまうとの欠点がある。次世代のCDK4/6阻害剤としてabemaciclib(ベージニオ)が発売され、効き目は強化された。ただし、本剤には「下痢」や「肺炎」等の副作用がある。
(5)免疫チェックポイント阻害剤
最初は悪性黒色腫治療に認可された抗PD-1抗体「ニボルマブ」が急速に適応拡大され、各種癌腫(肺癌・胃癌・食道癌・腎癌)に用いられているが、乳癌には適応がない。乳癌には抗PDL-1抗体テセントリクが「アブラキサン」との併用で(PDL-1が1%以上のトリプルネガティブ乳癌に)最近認められた。また、癌腫に関わらず、「マイクロサテライト不安定性」のある癌に抗PD-1抗体Pembrolizmab(キイトルーダ)が保険適応となっている。このチェックポイント阻害剤の効きはT細胞が自分の癌をやっつけることを邪魔する制御性T細胞を不活化することで、自己腫瘍にに対するT細胞(CTL)を働かせるとの目的でつくられたもので、あらゆる阻害剤に共通の副作用(制御性T細胞がないため自己のT細胞が自己の組織である肺、大腸、ホルモン臓器、肝臓、皮膚、腎臓、眼等々を攻撃してしまう)があり、注意深く用いる必要がある。
(6) その他分子標的剤として他の疾患には認可されながら、乳癌に未認可の薬剤は多数にあり、保険外にて使用して有効であった経験のある「triple negative 再発例へのCetuximab」や、「ER(+)PgR(+)Her-2(+)脳転移例へのイレッサ」等いずれも認可されていない。
長年期待されていたPARP阻害剤については、2018年6月遺伝性乳癌(BRACA1,2遺伝子変異を有する乳癌)に用いる特殊な分子標的剤「オラパリブ」が発売されました。本剤は高価な内服剤ですが、抗癌剤投与よりも軽い副作用で効果が強いというユニークな臨床成績が出ております。いわゆるトリプルネガティブ乳癌の10%弱が遺伝性乳癌といわれており、再発・転移後の化学療法をしても無効であった場合に適応となり、一部のホルモン受容体陽性乳癌にも用いることができますが、予め遺伝子診断をする必要があり、Her2陰性の再発・転移乳癌の方はこの遺伝子検査も保険適用となりました。過去には保険診療外で21万ほど必要な検査でした。
上記のホルモン剤・化学療法剤・分子標的剤のいずれにも分類されず作用機序が不明確ながら―おそらく分子標的治療剤に将来分類されうると予測されうる薬剤を2剤紹介しておく。
そのひとつが骨転移治療剤として保険認可されている「ゾメタ」。術後補助療法としてホルモン剤を用いている乳癌例に6ヶ月に一度計4回注射を行えば、骨転移のみならず他部位の転移・再発を約30%減少させるとの臨床試験成績がオーストラリアの医師団により発表された。ゾメタの注射は骨転移例に4週毎2年以上継続すれば「顎骨壊死」等の治療困難な副作用をおこすことがあり、また再発予防目的では保険適応も無いが、この回数であれば自由診療でも経済的負担は重くない。ガンマ・デルタ T 細胞系の免疫系を賦活させること、あるいは他の機序による効果かも議論されているが、結論はでていない。
もうひとつ容易に安価に入手できる薬剤が抗糖尿病薬「メトホルミン」である。
この薬剤を使用中の糖尿病患者に乳癌・膵癌等の発生が少ないことが知られてきた。昨年学術誌「 Cancer Research 」に本剤が癌の「幹細胞」を抑えるとの実験研究が発表され、糖尿病患者には本剤を使用する試みを行い、実際に乳癌皮膚転移が縮小中の患者さんがみられる。本剤は「低血糖」をおこすことは少なく、CT 等の際の造影剤使用時に休薬が必要程度の注意で済むため現在糖尿病でない癌患者を含めて臨床試験中の由である。
「分子標的剤」が癌増殖の機序を阻害することを目的に開発され、ハセプチンのように劇的な効果を示すも高価であるのが通常である。ここに示した2剤は容易に比較的安価で使用可能だが、奏効機序が目下不明のため分類を行いにくい薬剤である。
副作用で有名になった「サリドマイド」が多発性骨髄種の治療に役立っているようにまさしく「クスリは使いよう」であり、「標準治療盲信」時代からふたたび「サジかげん」を重視した医療への回帰の必要性を感じる。
乳癌の腫瘍マーカーには頻用されるもので次の種類がある。
CA15-3
代表的な乳癌マーカーで、その病状に応じた変動には信頼が持てる。ただし、手術可能の早期から上昇するわけでなく、転移があっても全く上昇しない例も多数。
CEA
乳癌以外にも消化器癌・肺癌等で上昇し、また喫煙・体質等で正常値を軽度に上回る場合がある。
ST-439
敏感なマーカーだがしばしば転移がなくても上昇する(偽陽性となる)ことがある。私の経験では100以上に上昇し、検査にても転移なく、内分泌療法を中止すれば正常化したことがあった。
BCA225
転移にて陽性となる頻度は決して多くないが、上昇例では経過判定に有用。
血清HER-2
特にHER-2 陽性例にはきわめて鋭敏・有用なマーカーだがHER-2陰性例でも再発時約半数例に上昇がみられる。このマーカーが高値でもHER-2 陰性例にハーセプチンが効くわけではないが、まれに初回手術時HER-2 陰性でも転移時の病巣ではHER-2 が陽転することがあり、再検査を考慮すべき参考とできる。
抗P-53抗体
乳癌・大腸癌・食道癌の手術可能な早期から上昇するマーカーとして特徴的。治療にて他のマーカーが正常化しても高値で変動すること、再発の無い術後に高値となることがあり、今後の検討も必要だが、現在は「診断時のみに用いるマーカー」として認可され、不合理が多い保険点数制度のシンボルとなっている。
1CTP
骨転移時に上昇するが、必ずしも転移の度合いとは平行しない。
上記のマーカーは、1CTP等の一部を除き、転移病巣の量と活性を反映すると考えて差し支えない。
癌が倍倍に増える場合、マーカーもそうなると考えてよいのだが、医師にもらったデータを自分でグラフにする熱心な患者さんもおられる。その際にコンピュータで作製したグラフをみての解釈に注意すべき点を2点指摘しておく。
仮に毎月のCA15-3の数値が治療前100U/ml, 新治療後1ヶ月後150U/mlであったとしよう。患者さんのみならず短気な医師も再度治療変更したくなるかもしれないが落ち着いて考えるべき。グラフ上は癌が1.5倍になったようにみえるが、グラフを「片対数」で作成すれば高度の進行は無い点がわかるし、もう1点、治療を更に続行して次月の結果を待つ必要がある。抗癌剤が「弱く」効く場合、最初からマーカーは下降するが、早晩再上昇する。むしろ劇的に効いた場合はがん細胞の溶解により、マーカーは当初は上昇し、その後の長期のマーカー下降を伴う。そうした特性をふまえ、しばらくは同じ治療を続けるべきであろう。
さらに、高値であった特定のマーカーの正常値が継続する場合、通常は医師・患者ともに安心するものだが、マーカーは万能ではない。一切のマーカー上昇を伴わずに病状が悪化したり、いままで正常値で測定していなかったマーカーが上昇していることがあり、長期の治療中癌の性質が変化する場合、こうしたことがおこりうる。
つまりは再発の際の経過観察は決してマーカー万能でなく、問診・触診等の診察や症状に応じたエコー・CT 等の画像検査がより重要。
乳癌初回治療で乳房部分切除または乳房切除等の手術がおこなわれるのは、「病期が局所に限定している」と医師が判定しているからである。
再発・転移の場合も頻度は多くないが病気が切除できる範囲に限局している場合がある。胸壁局所・リンパ節・肺・肝転移・卵巣転移等、一部は放射線治療・外科切除いずれかの選択が必要な場合もあるが、切除の対象とされることもある。
近年再発後の生存期間も著明に延長しつつあり、繰り返しの効かない放射線治療や、長期の抗癌剤治療よりも、外科手術がはるかに体に優しい場合も多いと考える。また、日本の手術費用は極端に安価で、例えば早期の卵巣転移を2-3日の入院で腹腔鏡手術をすれば、その後は不要なゾラデックス又はリュープリン注射の1年分の費用ですむ。
ただし、最近の再発乳癌の治療は乳腺手術の経験しかない外科医や、ときによっては「腫瘍内科医」にゆだねられる場合が多く、いくら容易に切除できる部位の肝転移でも、片側に1ヶのみの肺転移でも、切除を考えてもらえる機会は殆んどない。たとえそれぞれ肝・肺外科医を受診しても、「標準治療でない」との理由で通常断られる。
「標準治療」は10年以上昔、再発後の予後が不良であった頃のデータにもとずき決定されている場合が多く、現在の再発後生存期間が著明に延長しつつある時代にぴったりとくるものではない。限局された転移が一定期間の薬物療法に反応しない場合 「やさしいメス」 の利用は充分考えられます。さらには乳腺手術時にHER2 蛋白(-)とされていた方でも長期の経過でHER2 が陽転している場合もあり、ホルモン受容体も変化が起こり得る。
以上の手術は、メスにより限局された病巣をCR (完全寛解) 状態に導入するための手術で、乳癌の性質上、一定の全身治療 (タイプに応じ、ホルモン治療・化学療法・ハーセプチン等)の併用は必要である。腫瘍内科医や放射線科医はそれぞれ抗癌剤・放射線治療を当然すすめるとしても、外科治療は彼らが考えるほど野蛮な治療ではない。
これらの治療目的のメスと異なる手術がいわゆる「緩和外科」とよばれる手術で、たとえば癌性腹膜炎による腸閉塞に対する腸管バイパス手術や人工肛門造設術がある。また、メスは用いないにしても尿管の閉塞・胆管の閉塞に対する「ステント」留置術が行われ、これらにより嘔吐・腎不全・黄疸を治療し、QOLを保つ目的で実施される。
同様の「緩和手術」は整形外科領域で、胸椎骨転移にて下半身麻痺の危険が大きいときに行われる減圧・胸椎固定術、あるいは各部骨転移骨折の際の骨接合術等が行われ、脳外科領域ではガンマナイフの対象とできない大きな脳転移切除が(術後放射線治療と併用して)まれに行われる。これら他科の専門医の治療を受ける際にも、再発後の患者さんをまかせっきりにせず、通常乳腺外科医が全身的な診療を継続する必要がある。
オーケストラに指揮者が必要なごとく、患者さんの身体を「パーツ」 に分解しての診療は禁物である。
最後に、こうした再発転移乳癌の治療にて殆どの患者さんが、まずは乳房切除術を経験済みですが、乳癌発症当初から乳房切除を必要としない病型があることを、ステージⅣ乳癌の治療経験から学んでおります。薬物治療のみで、原発巣のみならず、遠隔転移もコントロールできる、稀な病型はホルモン受容体が陽性、陰性に関わらず、Her2陽性のタイプ、更にはごくまれにホルモン受容体陽性のタイプですが、なんとか乳房切除も可能な比較的早期の乳癌にもHer2陽性の方に対しては抗Her2術前治療が著効し、長期的には手術的治療が不要となる方を経験しております。術前治療の効果をみるまでもなく、遺伝子検査で手術不要な方の予測ができる日も間もなくです。
乳癌初回手術後に再発予防に用いられる放射線治療 (温存乳房照射・乳房切除後胸壁照射等) はここでは触れず、転移病巣照射に限って、後の「各論」での記載と重複を避け、要点のみ記載します。
まず、照射法も多様となり、進化しつつありますが、転移巣の照射も全身の転移分布により、限局した病巣に対し、延命・治癒などある程度の治療効果を期待する照射と、全身の転移があっても疼痛等の苦痛を除くための「緩和」を目指した照射があり、乳癌治療担当医は照射依頼に際し、その目的を「診療情報」とともにはっきりと放射線科医に伝えるべきです。
薬物治療の進歩は現在まで姑息的照射と扱われてきた照射も根治的意義を与えられる場合もあり、 照射法自体も乳癌治療医自体がある程度考え、紹介先を工夫する必要があります。たとえば2cm以上の脳転移は大病院では全脳照射となる可能性が高いが京都のガンマナイフ施設では工夫して実施してもらえます。(無論あまりに大きい病巣は手術が加わりますが)薬物療法の進歩で転移巣照射の機会は減るように見えますが、さにあらず患者さんの延命とともに必要とされる機会が増えることも考えられます。
脳・肺等領域として照射の対照となる正常組織は2度の照射は避けられますが、癌病巣に限局した照射ならば (例:全脳照射とガンマナイフ) 再度の治療機会が得られる場合があります。一方、胸壁転移のなかには照射野の外縁に次々と新病変が生じ、照射が「モグラたたき」となってしまう場合もあり、全身薬物療法との使いわけは重要です。
照射が長期となりますと、薬物療法の併用をしたくなりますが、ホルモン剤やハーセプチン等の安全な治療剤は別として、白血球を減らす作用の強い化学療法剤や、肺の炎症の合併をおそれてジェムザール、出血や穿孔の恐れがあるアバスチンが照射中禁じられることがあります。
外科医の手術がうまいか否かはテクニック以上にその手術適応の判断力にあると考えられます。
放射線科医も最新の機器を使いこなすのみでなく、乳癌治療の経過中での照射時期、線量・期間の判断が重要です。その点、信頼できる放射線医のみと交流すべく心がけております。
広い意味ではハーセプチンなどの抗体療法も免疫療法に分類可能であるがここでは「分子標的治療」の項目にゆずり、「養子免疫療法」と「ワクチン療法」にふれる。
ただし、どちらもブツク商法や、ネット広告等にて宣伝し、高額の治療費を要求されるニセ免疫療法がはびこっており、「免疫能・NK活性を高める」とうたった「健康(ヲガイスル)食品」は世に無限にある。ちなみに「ブック商法」とは癌の治療法を紹介し、巻末に「連絡先」を記したもので、「丸山ワクチン」がその元祖と記憶している。このワクチンは胃癌の臨床試験で延命効果なしと証明されたにもかかわらず類似の「蓮見ワクチン」とともになお(薬剤のみが)延命している。
これらと最近のWT1等の「ペプチドワクチン」は全く異なるものであり、後者がより理論的・学問的であるのだが、後者も効果証明への道はなお険しい。
効果判定に腫瘍縮小(RECIST)・延命効果等の癌治療界の基本的基準をとりいれることができておらず、他の治療法との比較がほぼ不可能である現状がある。今後、多数例の「治験」にて治療効果・延命効果が証明されてほしいが、「ブック商法」「ネット宣伝」で売られる高額・類似の「ニセワクチン」には注意してほしい。
菅の実施するOK-432 前投与併用養子免疫療法 (OK-AIT) はその開始が 1983頃であり、Rosenberg らのLAK 療法・TIL療法にさきがけるものであった。
彼らが培養した自己のリンパ球を高濃度のIL-2 (腎癌治療薬として認可)とともに静脈投与し、高度の副作用 (IL-2 による) と一定の有効性を報告したが、彼らの「静脈投与されたリンパ球が癌病巣に到達する効率は不良」との実験結果を我々も追試・確認し、我々は最初からリンパ球の局所投与にて臨床応用し、癌性胸水・癌性腹水・肝動脈投与による肝転移治療にみるべき効果を報告している。無論乳癌癌性胸水・肝転移のいずれもが「全身病」の一部であり、局所の制御とともに全身治療が重要であることは当然である。保険医療でない免疫療法を長期に継続すべきでなく、ましてそれが高額な「ニセリンパ球」であればなおさらである。「各論」にても例示されるが、乳癌の再発後の余命は、次第に、あるいは著明に、延長しつつある。
OK-AITの具体的な治療スケジュール・成績は各「癌性胸水」「肝転移」のページを参照いただきたい。
尚、こうした免疫療法が全身的な点滴治療で実現したのが「分子標的剤」の項目に記した免疫チェックのポイント阻害剤であるので、参照されたい。
癌の進行に伴う痛みや呼吸困難の対処、抗癌治療による嘔気・脱毛・便秘・下痢・シビレ等の副作用対策、不眠・不安の対策に至るまで、癌治療とあわせて対処すべき課題は多い。モルヒネによる痛みの除去が緩和医療の象徴と考えられているが、痛みが抗癌剤や照射により軽快し、モルヒネが不要となる場合もしばしば経験され、「緩和」は癌治療医が常に治療と同時に考えるべきとの理念が常識化しつつある。
一定の治療を試みたのちは治療を停止し、ホスピス等にて緩和医療に専念すべきとの説明がしばしば行われるが、副作用の少ない治療剤も多種使用可能となりつつある現代、治療を停止し、モルヒネのみを使うことが、真に「緩和」となるのであろうか?ホスピスの入院費は一般病院で入院・癌治療を行う場合よりむしろ高額である。「抗癌剤は使ってもらえるはずはないが、せめてハーセプチンのみの使用を依頼しては」とホスピス入院予定のHER-2 陽性の患者さんにささやいた経験があるが、当然使ってもらえず、胸水がたまっても放置され、「患者さんはやすらかに御永眠」とのいつもと同様の報告が届いた。
個々の患者さんの死生観は宗教により多様である。「希望」はQOL (quality of life)の重要な要素であり、「あなたの治療法はもうありません」という前に「次の手」を医師が必死で考え、勉強すべきと思うが・・・。
前世紀 (2000 年以前) に比し、再発・転移乳癌例の再発後の生存率が画期的に延長したことを強調してきたが、それでも治療空しく死亡される患者さんは多数である。病院から死亡退院される患者さんには「今後の患者さんの治療・延命を可能にできるよう、見守り、ご指導を」と合掌しているのだが、死亡された患者さんの診療経過から医療者が学び取る努力をせず、漫然と新薬を用いるのみでは患者さんの予後は改善しない。
病型(ホルモン受容体・Her-2 に応じたサブタイプ)により、再発形式・適応薬・予後にどう差があるのかを知ることは重要である。2000年以降当院および勤務病院で経験した自験転移乳癌 619 例中 409 例が既に死亡された。学ぶべき内容は多岐に渡るが、最初に、最も単純に、死亡された年代と初再発から死亡までの生存期間を解析したところ、死亡日が2004年以前・2005-2009 年・2009-2013年の3期に区分した場合、期間ごとに再発後の生存期間が延長し、(死亡例のみの集計ではあるが)生存期間中央値は各時期それぞれに 28.5ヶ月・47ヶ月・61.5ヶ月と 5 年毎の有意かつ著明な延長が認められた(図参照)。この結果を病型(サブタイプ)別にみると、ホルモン受容体・Her-2 陽性例では同様の結果であったが、ただ triple negative 例のみにては時代ごとの延命がみられなかった。
これは今世紀に抗 Her-2 薬、およびホルモン剤ともに新薬が開発されているが、triple negative 例のみは適応薬の開発がほとんど見られていない事実と合致する。
とにかく、「再発時期が近年となるほど生存期間が延長する」との海外の報告はあったが、死亡時期によっても同様の延命がみられる点は重視すべきであり、「再発すると 10 年生存は 5% 以下」とのとぼけた「ガイドライン」に盲従せず、再発しても希望をもって治療開始すべきである。