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乳癌肝転移の免疫療法

乳癌肝転移後の予後は不良であるとされ、肝転移発見後の生存期間は2年以内であるという医学界の常識があります。たと えば2002年11月発行の「再発乳癌治療ガイドブック(南江堂刊)」には「肝転移後の平均余命(50%生存期間)は10.7ヶ月、初回再発部位が肝で あった症例では7.5ヶ月」(大野ら九州ガンセンター)という絶望的な成績が示されています。

 ところが、21世紀にはいり、再発乳癌一般の、また特に乳癌肝転移の予後は大きく変化してきました。

きっかけは化学療法剤の発達と、一部の予後不良であった乳癌例に抗体「ハーセプチン」が保険収載されたためです。

 2001年以後に私が治療に関わった「初再発肝転移例」― 初再発の転移病巣に肝がふくまれる例、他部位再発の治療中・治療後に肝転移が診断された「続発肝転移」と区別します ― の診断後生存期間を図にて時代別に比較します。

乳癌肝転移の免疫療法


平均(50%)生存期間・5年生存率ともに著明に改善している事が示されていると思います。
2001年以前で平均生存期間 (50%の患者さんが生存する期間)12ヶ月、それ以後で平均34ヶ月、肝転移後の生存期間は実に3倍近くまで延長しています。現代(2001年以後において乳癌肝転移が起こっても5年以上生存される方は決して稀ではありません。(再発乳癌の治療、「肝転移」参照)では、肝転移診断後、10年以上生存された方は下記の13名です。

〈肝転移診断後10年生存例リスト(2018年10月現在)〉

No ホルモン受容体 Her2 初発 続発 (先行転移) 併発転移

肝転移に対する

初回治療


他治療

診断後生存月数

   +:生存中

肝治療後の

再発巣

228
70代
HR(+)

続発 (軟部) OK-AIT ホルモン療法 168死亡
47
50代
HR(+)
HER(+)
初発   肝切除
 OK-AIT
ハーセプチン
化学療法
160死亡骨転移
64
50代
HR(-)
HER(+)
初発   肝切除 ハーセプチン
化学療法
231+
75
60代
HR(+) 初発 OK-AIT ハーセプチン
内分泌化学療法
148死亡軟部転移
110
50代
HR(-)
HER(+)
初発   肝切除 ハーセプチン
化学療法
219+
134
50代
HR(+) 続発 (胸膜)
→卵巣・腹膜
OK-AIT

ホルモン療法

化学療法

124死亡
149
50代
HR(+)
HER(+)
初発   肝切除 ハーセプチン
内分泌化学療法
212+後腹膜再発

222

40代

HR(+) 初発 骨・癌性胸水原発巣 胸水OK-AIT
肝部分切除後OK-AIT
乳房切除

ハーセプチン

内分泌化学療法

176+肝再発

351

40代

HR(+)
HER(+)
初発

ハーセプチン

化学療法

151死亡脳転移

268

40代   

HR(+)
初発

OK-AIT

DMpC

184+肝再発

310

50代

HR(+) 初発
リンパ節 肝切除
 OK-AIT

化学療法

175+肝再発

411

30代

HR(+)
初発

肝切除
 OK-AIT

ホルモン療法

167+

432

40代

HR(+)
続発 (骨)

卵摘

ホルモン療法

化学療法

135死亡
脳転移

なお、表の「初発」は最初の再発・転移部位に肝が含まれている方で、「続発」は他の転移治療に続き肝転移が診断された方です。

乳癌標準治療のガイドラインでは局所治療の代表として肝動脈化学療法をあげ、「推奨グレードD」(有害無益の意味)とし、一方、標準治療の標準的な生存 率は全く記載していません。局所治療のシンボルともいえる肝切除についても、乳癌に全身的転移が多く、切除を行っても残肝への再発が多いため、標準治療の 世界では切除できる病巣でも切除をすすめられることは無くなりました。

私が25年前より開始した肝動脈内のOK-432に続く培養自己リンパ球移入治療(OK-AIT)は肝切除可能例に残肝再発防止目的で、切除不能例では 転移巣縮小・消失目的で、(写真参照) 特にホルモン受容体陽性例に有用と考え、全身的内分泌化学療法との併用をおすすめしておりました。

過去は肝転移後の10年生存は全身治療に加え、肝切除又は動注OK-AITを受けられた方に限られましたが、最近はホルモン受容体陽性又はHer2陽性の方の全身的治療のみでの長期生存例も稀ではなくなりました。